強制給餌について
あなたにとって、強制給餌や流動食のイメージは?
特にチューブによる流動食には、(私もそうでしたが)けっこう誤解や偏見があるように思います。
じつは、猫にとって鼻チューブの食事って、私たちが想像するより苦痛や負担がすくないんです。
チューブ設置に全身麻酔は必要ないし、食事中も寝ちゃうくらいリラックス。
私は経鼻チューブを実際におこない、目の前で猫がみるみる元気になっていく様子を見て、なぜもっとはやくこの方法を知っていなかったのか!という後悔と反省の気持ちが大きくなりました。
かつて見送った猫も、もしかしたらこの方法だったら回復できたんじゃないだろうか……と。
回復の可能性を捨てないで
もちろん、なんでもかんでもチューブ給餌にすれば元気になるわけではないと思います。
でももしかしたらチューブ給餌をすることで回復する可能性だって、あるかもしれません。
難しそうだから、不自然だから、痛々しいから、という理由で治療の選択肢からはずすのは、とてももったいないと思います。
知ってて選ばないことと、知らずに選べないこと
猫ちゃんの治療方針は最終的には飼い主さん自身が決めることですから、強制給餌という方法をあえてとらない、という選択もあると思います。
その判断をするときに、知っていて選ばないのと、知らずになんとなく怖いからと選ばないのとでは、天地ほどの差があるのではないでしょうか。
あとで後悔をしないためにも、強制給餌やチューブ給餌について、基本的なことだけでも知っておくと安心ですね。
入手がかんたんな市販の流動食や、強制給餌に適した製品を中心に、選び方や使い方などをご紹介していきます。
強制給餌をはじめるめやす
本格的な強制給餌をはじめるめやすは、元の体重から10%へったタイミングだそうです。
ヘラやスプーンで食べさせようとがんばっていたとしても、体重が一割へってしまったらそろそろ次の段階なのかもしれません。
ぜひ、チューブなどによる流動食も検討してみてください。
与え方
口から(ヘラ、シリンジ)
流動食を口から食べてもらう場合は猫ちゃんの協力がかかせません。とはいえ、ほとんどの猫ちゃんはヘラやシリンジによる強制給餌が苦手。
口からの強制給餌はとくべつな処置もいりませんので、一見手軽な方法に感じられます。そのため、この方法だけでなんとかしようとする飼い主さんも多いのではないでしょうか。
ところがいざ挑戦してみると、必要な量をちゃんと食べさせるのは意外と大変なものです。
この方法だけで一日分の栄養がとれないようであれば、鼻などからのチューブ給餌も考えてみましょう。
メリット 特別な処置や器具がいらない。
デメリット 量を食べさせるのに時間と労力がかかる。猫がいやがる。
鼻から(経鼻チューブ、経鼻胃カテーテル)
鼻のあなからごく細いチューブをいれ、直接液状の食事をながします。
チューブを数か所顔に縫いとめるだけなので、かんたんな部分麻酔ですみます。腎臓などがわるくて全身麻酔ができない猫ちゃんでもだいじょうぶ。
チューブ給餌のなかでもおそらくいちばん気軽にはじめられる方法といえるでしょう。
メリット 部分麻酔などででき、全身麻酔をしなくてすむので高齢や腎・肝等の疾患があってもOK。はじめるのもやめるのもかんたん。鼻チューブでも口から食べられる。猫も飼い主も心身の負担が少ない。
デメリット チューブが詰まりやすいので薄めの流動食しか使えない。薄いと量が増えるのでやや時間がかかる。子猫や呼吸器が悪い猫には使えない。ほとんどのケースでエリザベスカラーが必要。部分麻酔自体がそれなりに痛い。長期におこなうのはむかない。
食道から(食道チューブ、食道カテーテル)
首のよこからチューブをいれ、食道へながします。太めのチューブを設置できるので、濃いめの流動食でもOK。給餌時間も短時間ですみます。比較的長期(場合によっては最後まで)で使うことができます。
メリット ごく短時間の麻酔で設置できるため負担がかるく、腎臓や肝臓がわるくてもはじめられる。チューブの設置箇所の傷ははずせばすぐふさがるのでやめるのもかんたん。エリザベスカラーなどがなくても大丈夫な子も多い。
デメリット 定期的にチューブの交換が必要な場合も。
胃から(胃ろうチューブ、胃カテーテル)
わき腹などからチューブをとおして胃のなかへながします。いわゆる「胃ろうチューブ」です。
すこし大変な手術はありますが、内視鏡のある病院であればわりあいらくに設置できます。
けっこう太めのチューブなので濃いめの流動食が使え、食事が短時間ですみます。適量を守れば嘔吐も少なめです。
長期間使用でき、猫ちゃんの食事ストレスの少なさ、カロリー維持の楽さで生活の質を高められます。
メリット かんたんにエネルギーを補給できる。短い時間でらくに食事ができるため、猫ちゃんと飼い主の苦痛と負担が少ない。濃いめの流動食でも平気なので種類を選ばない。チューブ給餌の主流。
デメリット 全身麻酔による設置手術が必要。設置初期には、腹腔に食事がもれる事故がごくまれにある。チューブ周辺の感染にはやや注意が必要。胃より下にトラブルがある場合は経腸チューブのほうが無難。
腸から(経腸カテーテル)
おなかからチューブをいれ、小腸へながします。
メリット かんたんにエネルギーを補給できる。短い時間でらくに食事ができるため、猫ちゃんと飼い主の苦痛と負担が少ない。胃の上部までにトラブルがあっても食事ができる。
デメリット 直接腸へいれるため、専用の経腸食(カケシアやキドナなど)でないと消化不良になる。免疫がおちているとチューブの設置部分から感染症をおこすことがあるため、長期は難しいことも。
そのほか
口を大きくあけてシリンジなどで食道へながしこむ(開口+食道)
メリット 特別な手術や処置、器具がいらない。一時的におこなうのであれば比較的簡単。
デメリット 猫がいやがって苦痛をともなうことがある。必要量をとらせるのに時間がかかる。長期におこなうのが難しい。
静脈から(栄養点滴)
メリット 口から食べさせる必要がないので体力がおちていてもできる。意識がなくてもOK。
デメリット 点滴だけですべての栄養をまかなうことが難しいため、長期の維持はできない。